ウメ
ウメ
ウメ(梅、学名:Prunus mume、英: Japanese apricot[1])は、バラ科サクラ属の落葉高木、またはその果実のこと。花芽はモモと異なり、一節につき1個となるため、モモに比べ、開花時の華やかな印象は薄い。毎年2月から4月に5枚の花弁のある1センチメートルから3センチメートルほどの花を葉に先立って咲かせる。花の色は白、またはピンクから赤。葉は互生で先がとがった卵形で、周囲が鋸歯状。樹木全体と花は主に鑑賞用、実は食用とされ、枝や樹皮は染色に使われる。
分類
梅には500種以上の品種があるといわれている。近縁のアンズ、スモモと複雑に交雑しているため、主に花梅について園芸上は諸説の分類がある。実梅も同じ種であるので同様に分類できるが[2]、実梅の分類は一般には用いられない[3]。梅は、野梅系、緋梅(紅梅[4])系、豊後系に大きく3系統に分類できる[5]。
果実
果実は、2センチメートルから3センチメートルのほぼ球形の核果で、実の片側に浅い溝がある。6月頃に黄色く熟す。七十二候の芒種末候には「梅子黄」(梅の実が黄ばんで熟す)とある。特定の地域のみで栽培される地方品種が多く、国内どこでも入手可能な品種は比較的限定される。また、品種によっては花粉が無かったり自家受粉しなかったりする品種もあり、その場合は開花時期が重なるように授粉用の品種も必要となる。
栄養・薬効と毒性
熟した果実をそのまま食べることもあるが、普通は熟し切っていない青梅を梅干しや梅酒などに加工して食用にされる。他に、梅酢、梅醤やジャムなどにして食用とする場合もある。また甘露梅やのし梅などの菓子や、梅肉煮などの料理にも用いられる。強い酸味が特徴であり、クエン酸をはじめとする有機酸などを多く含むので健康食品としても販売されている。果実から種を取り出すための専用器具も販売されている。 果実の中心にあり、果肉を食べた後に残る種核は、後述する菅原道真信仰との関連で「天神様」と呼ばれる。これは硬いが、食用にでき[8]、梅茶漬けにアクセントとして添えるといった利用法がある。
中国では紀元前から酸味料として用いられており、塩とともに最古の調味料だとされている。日本語でも使われるよい味加減や調整を意味する単語「塩梅(あんばい)」とは、元々はウメと塩による味付けがうまくいったことを示した言葉である。また、話梅(広東語: ワームイ)と呼ばれる干して甘味を付けた梅が菓子として売られており、近年では日本にも広まっている。
さらに漢方薬の「烏梅(うばい)」は、藁や草を燃やす煙で真っ黒に燻したウメの実である。健胃、整腸、駆虫、止血、強心作用があるとされるほか、「グラム陽性菌、グラム陰性の腸内細菌、各種真菌に対し試験管内で顕著な抑制効果あり」との報告がある[9]。
なお、サッポロ飲料株式会社と近畿大学生物理工学部、和歌山県工業技術センターの共同研究で、梅の果実成分による疲労軽減効果が報告されている[10]。
6カ月の梅酒飲用で、HDLコレステロールが有意に増加し、動脈硬化指数が有意に低下し、血圧が低下傾向となり、血糖値は変化が認められなかった、との報告がある[11]。
毒性
青梅には青酸が含まれているので、「食べると死ぬ」という警告が日本では広く知られている[12]。実際に、ウメや近縁のアンズのみならずモモなども含めてバラ科植物の葉や未熟な果実や種子には、青酸配糖体のアミグダリンやプルナシンが含まれている。これらの中でウメは青梅、つまり未熟なまま収穫されることが多い。未熟な果実や種子に含まれたアミグダリンやプルナシンを摂取すると、胃酸により有毒性を発揮する恐れがある他、腸内細菌が持つ酵素の作用によってもシアンが生成することがある。このため青梅をヒトが多量に食べた場合は、痙攣や呼吸困難、さらには、麻痺状態になって死亡するといわれている。
ただし、胃酸や胃の消化酵素だけでは、シアンの生成は起こらない。中毒の危険は、大量の未熟な種子を噛み砕いて、その酵素を併せて摂取した特殊なケース(アンズの種子を大量に食べたことによる重症例がある)に限られる。よって、幼児などが青梅の果肉を囓った程度では、ほぼ心配ないとされている。また、梅酒の青い実や梅干しの種の中身などは、アルコールや塩分、天日干しの熱により酵素が失活し、毒性は低下している。
これらとは別に、過敏症、アレルギーの症状が、複数報告されている[9]。
日本における作付けと収穫
農林水産省が2014年11月25日に公表した統計によると、
- 全国結果樹面積:16,200ha
- 全国の収穫量:111,400t
- 和歌山県:71,400t
- 群馬県:5,400t
- 奈良県:2,750t
- 長野県:2,190t
- 三重県:1,870t
- 福井県:1,860t
- 山梨県:1,860t
- 神奈川県:1,840t
- 宮城県:1,590t
- 福岡県:1,390t
- 南高の栽培面積:5,633ha
- 白加賀の栽培面積:2,307ha
- 竜峡小梅の栽培面積:511ha
- 小粒南高の栽培面積:393ha
- 豊後の栽培面積:361ha
- 鴬宿の栽培面積:359ha
- 日本の主な産地(作況調査(果樹)各年度版ならびに市町村別データ長期累年一覧による)
日本国内では和歌山県で国内総収穫量の6割以上を占める寡占状態が続いているが、ウメの産地は全国に分布している。作況調査(2014年版)では、14県が年間生産量が1000トン以上、また北海道と沖縄県以外は全都府県とも100トン以上となっている。
- 青森県 - 収穫量国内上位。最北端の産地。
- 宮城県 - 収穫量国内上位。
- 神奈川県 - 収穫量国内上位。古くから小田原は梅の産地として知られ、曽我梅林は梅採取用の農林にもなっている。
- 山梨県 - 竜峡小梅の栽培が盛ん。
- 長野県 - 収穫量国内上位。竜峡小梅の栽培が盛ん。
- 三重県 - 収穫量国内上位。かつて梅栽培はそれほど盛んではなかったが、1990年代後半からミカンからの転作作物として、温暖多雨で梅栽培に適していた東紀州地方を中心に広まった。隔年統計の県では最も収穫量が多く、梅栽培の先駆的地域である和歌山県や奈良県からの入植者もいるなど、地の利を生かしている[15]。
- [和歌山県 - 収穫量国内1位。「紀州南高梅」として高いブランド力を持ち、国内全収穫量の65%を占める[17][信頼性要検証]。また、主要産地のみなべ町と田辺市で県内生産量の7割強を占める[18]。みなべ町では「紀州みなべの南高梅」を、印南町、みなべ町、田辺市と西牟婁郡(白浜町日置川地区、上富田町など)では「紀州梅干」を地域団体商標に登録している。その他、紀北の紀の川市やかつらぎ町、田辺市龍神村地区などでも梅作りが行われるなど産地は県全域に分布する。主な品種は「南高」で、稀少品種ながら梅酒用の需要が高い「古城」も特産品として知られる。
- 福岡県 - 収穫量国内上位。
- 病害虫 - プラムポックスウイルス
主な品種
大梅・中梅
- 南高梅(なんこううめ)
- パープル南高(ぱーぷるなんこう)
- 加賀地蔵(かがじぞう)
- NK14(えぬけーじゅうよん)
- ミスなでしこ(みすなでしこ)
- 八郎(はちろう)
- 星高(せいこう)
小梅
- 竜峡小梅(りゅうきょうこうめ)
- 甲州最小(こうしゅうさいしょう)
- 織姫(おりひめ)
- 白王(はくおう)
- 衣笠(きぬがさ)
- パープルクィーン(ぱーぷるくいーん)
花梅
スモモウメ
染色への利用
枝や樹皮、樹皮に付くウメノキゴケは、煮出すなどして布を染めるのに使われる。この梅染の起源は飛鳥時代に遡ると考えられ、加賀友禅の源流になった[30]。月ヶ瀬梅林がある奈良市月ヶ瀬地区では、烏梅と紅花を組み合わせた染色が行われている[31]。
日本における梅の文化
別名に好文木(こうぶんぼく)、春告草(はるつげぐさ)、木の花(このはな)、初名草(はつなぐさ)、香散見草(かざみぐさ)、風待草(かぜまちぐさ)、匂草(においぐさ)などがある。
花を扱う歌は以下である[32]。そしてウメは古里(ふるさと=奈良平城京)の静かな美しさと文化的郷愁の花となり[33]、和歌や能に取り上げられることになる[34]。
天文14年(1545年)4月17日に後奈良天皇が、京都の賀茂神社に梅を奉納したと『御湯殿上日記』にあることに因み、「紀州梅の会」が新暦の6月6日を梅の日に定めている[35][36]。また、古来より梅の名所として「梅は岡本、桜は吉野、みかん紀の国、栗丹波」と唄われた岡本梅林(兵庫県神戸市東灘区岡本)は、起源は明確ではないが山本梅崖の『岡本梅林記』に羽柴秀吉の来訪が記されており、寛政10年(1798年)には摂津名所図会に岡本梅林の図が登場するほどの名所であった[37][38]。
平安時代の政治家・碩学であった菅原道真は梅をこよなく愛した。道真は死後に天満大自在天神(天神)として神格化され、梅はそのシンボルとみなされて、飛梅伝説(後述)などを生んだ。このほか、江戸時代の禅僧で禅画を多く描いた白隠の代表作の一つ「渡唐天神図」には、「唐衣(からころも)おらで北野の神ぞとは そでに持ちたる梅にても知れ」(意訳:これが天衣無縫の唐衣を着た北野天満宮の神であることを、彼が袖に持っている梅によっても知りなさい)の賛が残されている(古くは『菅神入宋授衣記』にほぼ同様の和歌が記載されている)[39]。ところで日本では申年はウメが不作になることが多いと言われてきた[40]。この申年のウメを使って平安時代の村上天皇は疫病を退けたとの言い伝えがある[41]。
俳句では梅は春の季語である[42]が、「早梅」「寒梅」や「探梅(たんばい、うめさぐる)」は冬の季語[43][44]。
語源
「ウメ」の語源には諸説ある。一つは中国語の「梅」(マイあるいはメイ)[45]の転という説で、伝来当時の日本人は、鼻音の前に軽い鼻音を重ねていた(東北方言などにその名残りがある)ため、me を /mme/(ンメ)のように発音していた。馬を(ンマ)と発音していたのと同じ。これが「ムメ」のように表記され、さらに読まれることで /mume/ となり /ume/ へと転訛した、というものである。上記のように「ンメ」のように発音する方言もまた残っている。
家紋
梅紋(うめもん)は、ウメの花を図案化した日本の家紋である。その一種で「梅鉢(うめばち)」と呼ばれるものは、中心から放射線状に配置した花弁が太鼓の撥に似ていることに由来している。奈良時代に文様として用いられ始め、菅原道真が梅の花を好んだことにより天満宮の神紋として用いられ始めたと考えられている。
使用
「梅」は、太宰府天満宮、「星梅鉢」は北野天満宮が用いている。武家では、菅原氏の末裔や美濃斉藤氏の一族が菅原天神信仰に基づいて用いた。おもに、加賀前田氏の「加賀梅鉢」や相良氏の「相良梅鉢」などがある。また、天理教の紋が「梅鉢紋」であるのは、教祖・中山みきの中山家の家紋に由来する。
図案
図案は、「梅(うめ)」、「梅鉢(うめばち)」、「捻じ梅(ねじうめ)」、「実梅鉢(みうめばち)」などがある。「匂い梅(においうめ)」や「向う梅(むこううめ)」などの写実的な図案の梅花紋と、「梅鉢」などの簡略的な図案の梅鉢紋に大別される。
梅にまつわる言葉
- 「桜伐(き)る馬鹿、梅伐らぬ馬鹿」
- 「東風(こち)吹かば にほひおこせよ梅の花 主なしとて 春な忘れそ」
- 「桃栗三年、柿八年、柚(ゆず)の馬鹿野郎十八年、梅はすいすい十六年」
- 「梅の木学問」
- 「梅と桜」
- 「梅に鶯」
- 「梅の木分限」
- 「梅は食うとも核食うな、中に天神寝てござる」
- 「塩梅」(あんばい、えんばい)
この他、ウメとは直接関係ないが、音が「埋め」と同じであるために田を埋めた場所である埋め田を「梅田」という漢字に変えるといったことが行われてきた。
梅を題材とした文学
日本の梅の名所
- 全国の天満宮 - 梅がシンボルになっている。
北海道・東北・関東地方
- 三笠あすか梅の杜(北海道三笠市)- 北海道最大の梅園であり、約10,000本が植栽されている。
- 平岡公園(北海道札幌市清田区)- 広さ6.5ヘクタールの敷地に約1,200本の梅がある。紅梅種と白梅種との比率は約6:4。
- 狩勝高原梅園(北海道新得町)- 標高が約600mと高く冷涼な場所にもかかわらず、約1,000本の豊後梅がある[54]。
- 梅の里(福島県郡山市)- 約12,000本もの梅がある農地。
- 偕楽園(茨城県水戸市)- 約3,000本の梅がある日本庭園。日本三名園の一つ、また関東三大梅林の一つ。
- 筑波山梅林(茨城県つくば市)- 約1,000本の梅がある、日本百名山の一つ。
- 吉野梅郷(東京都青梅市)- 前述のプラムポックスウイルスに対する防疫対策として伐採された後、再生に取り組んでいる[55]。
- 府中市郷土の森梅園(東京都府中市) - 広さ17ヘクタールの敷地内に、約60種、1,100本の梅がある。
- ぐんま三大梅林(群馬県)- 安中市の秋間梅林(50ha、3.5万本)、高崎市の榛名梅林(400ha、12万本)・箕郷梅林(300ha、10万本)がある[56]。
- 越生梅林(埼玉県越生町)- 関東三大梅林の一つ。
- 越谷梅林公園(埼玉県越谷市)- 果樹栽培が盛んだった土地を公園化し、約40種・300本前後の植栽がある。
- 田浦梅林(神奈川県横須賀市)- 三浦半島随一のウメの名所。約2,700本が植えられている。
- 曽我梅林(神奈川県小田原市)
- 湯河原梅林(神奈川県湯河原町)幕山公園内にあり4,000本の梅が幕山の山肌に咲く姿を広場から一望できる。
中部地方
- 不老園(山梨県甲府市)- 甲府盆地随一の梅園。20数種、約3,200本が植えられている。
- 熱海梅園(静岡県熱海市)- 関東三大梅林の一つ。
- 岩本山公園(静岡県富士市)- 400本程度しかないが、富士山との撮影ポイントとして有名。
- 佐布里池梅林 (愛知県知多市) - 25種類、約4,900本。佐布里緑と花のふれあい公園。
- 県営大高緑地(愛知県名古屋市緑区)- 約400本
- 岐阜市梅林公園(岐阜県岐阜市)- 約1,300本
- 安八百梅園(岐阜県安八町)- 約1,200本
- 南部丘陵公園(三重県四日市市)- 約3,000本
- かざはやの里(三重県津市)[57] - 伊勢温泉ゴルフクラブの中に500本。
- 三方五湖(福井県三方町)- 梅丈岳の麓三方五湖湖畔の梅林(農園)。
近畿地方
- 京都御苑(京都御所、京都市中京区)- 京都市内の梅の名所。
- 青谷梅林(京都府城陽市)- 約10,000本の梅がある。広さ20ヘクタール、鎌倉時代からの歴史がある。
- 大阪城公園(大阪市)- 大阪城公園内。1.7ヘクタールの広さに約1,270本。大阪市の都市公園事業。無料回遊梅林(果実は使用農薬の品種から採取不許可)。大阪府立北野高校開校100周年事業より。
- 月ヶ瀬梅林(奈良県奈良市)- 名勝。旧・添上郡月ヶ瀬村の梅林。約13,000本の梅がある。樹齢600年の古木が存在。
- 追分梅林(奈良市中町追分)広さ10ヘクタール6,000本。追分本陣跡近く。
- 賀名生梅林(奈良県五條市)- 南北朝時代の和歌にも詠まれる、約20,000本の梅林。
- 綾部山梅林・室津(兵庫県たつの市)- 瀬戸内海を「ひとめ2万本」と称される。
- 岡本梅林公園(兵庫県神戸市東灘区岡本)- 江戸時代に「梅は岡本、桜は吉野、みかん紀の国、栗丹波」と唄われたという。面積は4,566平方メートルと狭いが、37種153本の梅が揃う。
- 南部梅林(和歌山県みなべ町)-「一目100万本、香り十里」と称される南高梅の梅林。
- 岩代大梅林(和歌山県みなべ町)- 広さ30ヘクタール、梅木20,000本の南高梅の梅林。
- 千里梅林(和歌山県みなべ町)- 熊野古道の千里の浜を見下ろす丘にある約6,000本の南高梅の梅林。
- 紀州田辺梅林(和歌山県田辺市)- 300,000本の梅木、大蛇峰山麓にある。
四国・九州地方
- 阿川梅の里(徳島県名西郡神山町)- 30ヘクタールの敷地に16,000本の鶯宿梅の梅林。
- 牛尾梅林(佐賀県小城市)- 広さ22ヘクタールの面積に約13,000本の梅林。由来は不明だが江戸末期から梅の名所として知られる。
- 伊万里梅園(佐賀県伊万里市)- 栽培用。25ヘクタールに6,500本。1993年栽培開始と歴史は浅い。
その他、長浜盆梅展(滋賀県長浜市)、平城京旧跡(奈良県)。大野下水処理場(大阪市西淀川区)枚岡神社(東大阪市)